目次
娘への謝罪は罪悪感を軽くしたいから?
母娘関係改善カウンセラー横山真香です。
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ワンオペ育児でへとへとに
子供が小さかった頃、周囲に頼れる人がいなくてつい子供に当たってしまったという人は多いと思います。私も仕事、育児、家事諸々でいっぱいいっぱいでした。虐待とまではいきませんが、あの時は子供に当たってしまった記憶は確かにあります。成人した彼らが覚えていないのを祈るばかりです。
先日、カウンセリングルームに来られたTさん(50代)は、子育ての最初の頃は夫の転勤により地方で過ごしたそうです。実家から遠く、実母に手伝いは頼めない。夫は仕事で忙しく、早朝出勤、深夜帰宅という日々で、週末は疲れて寝てばかり。育児、家事など負担は全てTさんに降りかかっていた、ワンオペ育児でした。
慣れない土地で、友人もいない中、Tさんを苦しめたのは孤独でした。初めての子育てはわからないことばかり。不安もあって、Tさんはわが子を可愛いと思える心の余裕はなく、泣けばイライラしながらおっぱいをあげる。よちよち歩きが始まった頃も、危ない、目を離せないと、心配の連続でストレスフルな毎日を過ごしていました。
子供が言葉を覚えて話せるようになると、言うことに腹が立つ。意思表示が増えるほど喜ぶどころから、「うるさい、なんで言うことがきけないのだ」といった気持ちの方が強かったと言います。
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イライラが募り、子供を叩いてしまい…
イヤイヤする子供に対して、「これほどやってあげているのに、どうして反抗するのか」といった怒りが募り、だだをこねる子供を無視。そのうち、「黙れ」という気持ちから手を挙げるようになりました。また、「お前がうるさいから、私が疲れるんだよ」とか、「何度も言わせるな」といった乱暴な言葉も浴びせるようになりました。
そんな悪夢の日々から解放されたのは、夫の転職で実家近くに住むことになり、実母、姑の助けを借りられるようになってからです。近所に子育て中の実姉や友人が暮らしており、ママ友の知り合いも増え、Tさんには仲間ができたように感じられました。そして、子供に手を挙げることは一切なくなりました。
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20代の娘から「虐待された」と言われ
その後、下の子も産まれましたが、2度目の育児は余裕もあり、Tさんはようやく子供が可愛いと思えるようになりました。
夫も時間に余裕ができたことから、子育てを積極的にやってくれるようになり、Tさんは幸せな日々を過ごすようになりました。子供達が成長し大学生と高校生になってからは、楽になったと感じていたTさん。しかし、思いがけないことが起きたのです。
それは長女からの言葉でした。最初は、さりげないひと言でした。「お母さんは私を虐待していたよね」。その時は、テレビドラマを見ていたのですが、ぐずる子供に母親が手を挙げそうになったシーンでした。
Tさんは一瞬、言葉につまってしまいました。長女は、心にしまっていたものをようやく吐き出した様子でしたが、「昔のことだものね、覚えていないよね」と言って、席を立っていきました。
正直、長女に手を挙げていたことは、Tさんの中でぼんやりした記憶になっていたのです。ワンオペ育児の日々が終わった時点で、長女に対してはそれまでとは違い、できるだけ怒らないようにする、抱きしめてあげる、絵本を読み聞かせ、夜は眠りにつくまで一緒にいてやるなど、よい母親として接してきたつもりでした。
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ノートに書かれた「母ウザイ」
10代後半だった長女との関係は、Tさんにとって難しいと感じることも多かったそうです。娘は中学や高校で友人関係、部活などスムーズにいかないこともありました。勉強にも身が入らず、進学も最後まで決まらず、ハラハラさせられました。それでも何とか大学に入り、ホッとしていた矢先、長女が放ったひと言で、その後、態度が変わっていったのです。
大学1年の夏休みが終わった頃、長女はだんだん口数が少なくなっていきました。バイトで帰りが遅く、きっと疲れているのだろうと思っていたTさんは、さほど心配していなかったのですが、ある日、娘の部屋のごみ箱を空けようとしたら、破られたノートの切れ端が目に入りました。それには、「母ウザイ」という言葉がいくつも書かれていたのです。
娘は疲れているから話さないのではない。私を避けているのだ。そう思ったTさんは、ある時、自室にいた娘に声をかけました。
「あなたが小さかった頃、初めての子育てでお母さん、本当に大変だったの。お父さんの転勤で知らない土地に住んでいて、誰も助けてくれなかったし、友人もいなかった。あなたを叩いてしまったこと、本当にごめんなさい」。心から謝ったつもりでした。
娘はうなずきましたが、見ていたスマホの画面から顔を上げようとはしませんでした。Tさんは「良かった、娘は許してくれた」と思ったのです。しかし、状況はそう簡単には変わらなかったのです。
その後もTさんを避ける娘に、「まだ昔のことを怒っているの? お母さん、あなたに謝ったわよね」と声をかけるのですが、だんだん無視されるようになりました。
そこで、ある日、Tさんは思わず娘の腕をつかみ、「いい加減にしなさいよ。何度、私が謝ったら気が済むの?」と声を荒げてしまったのです。
腕を振りほどいた娘には軽蔑の表情が浮かんでいました。
「お母さんが謝りたいのは、自分の罪悪感を軽くしたいからでしょう」。その言葉はTさんの心に深く刺さったのです。
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娘との膠着状態を打開したいのだが
カウンセリングルームに来られたTさんには、焦りの様子が見受けられました。すでに記憶のかなたにあった事実に対し、娘はずっと覚えていて、いまや母親への怒りや嫌悪感があります。
娘に何度謝っても、とりつくしまもないどころか、逆にそれすらも非難されてしまう。一体、どうすればいいのか。娘に許してもらえる日は来るのだろうか。
Tさんは次々と出てくる不安な気持ちをカウンセリングで言葉にされました。ここでTさんに気づいて頂きたいのは、当時の状況、手を挙げてしまった理由を娘に何とか説明して、理解して欲しいと強く願っているご自身の思いです。
けれども、それはTさん側の事情によってなのであり、娘には言い訳にしか聞こえないのです。娘がそのように受け止めている時には、いくらこちらの状況を伝えようとしても、閉じた耳は、心は開かないどころか、よけいふさいでしまうでしょう。
ではどうすればよいのか。娘に謝ることで、関係性を今すぐにでも変えようとは思わないことです。
関係性を変えるには、心のプロセスが必要です。一瞬にして人の心が、とくに捉え方、見方が変わるわけがないのです。
長女が幼い頃の記憶にとらわれている苦しみは、本人が向き合わなければなりません。そこには、時間も必要です。この時間の存在を見失っている人がとても多いのです。
Tさんも、そこに気づいて下さったようです。「すぐにでも、娘との関係を修復しなければ今後、娘は私のもとを去ってしまうかもしれない」
それぐらい、追い詰められていたのですが、焦れば焦るほど、娘に取り入ろうとしてしまう。それこそが、娘をかたくなにさせていると気づいたのです。
「今日は花を買って帰ろうと思います。玄関に飾ってみます。あの子が見てくれなくてもいい。ギスギスしていた家の中の雰囲気を変えるきっかけになれば」
許してもらうことばかり執着していたTさんの気持ちが緩められたのは、母と娘の間に距離感ができてもいいと思えたからです。その距離感はさらに離れてしまうものではなく、新しい関係性が作られるための大事な分岐点なのです。
このブログを読んで、私のカウンセリングに興味を持って頂けましたら、こちらのホームページもご覧ください。
娘から、他人からいつも振り回されている、といったお悩みの方に。
カウンセリングとは別に「実践マインド・プログラム」というメニューをご用意しております。こちらからご覧ください。
母娘関係改善カウンセラー横山真香です。
- ワンオペ育児でへとへとに
子供が小さかった頃、周囲に頼れる人がいなくてつい子供に当たってしまったという人は多いと思います。私も仕事、育児、家事諸々でいっぱいいっぱいでした。虐待とまではいきませんが、あの時は子供に当たってしまった記憶は確かにあります。成人した彼らが覚えていないのを祈るばかりです。
先日、カウンセリングルームに来られたTさん(50代)は、子育ての最初の頃は夫の転勤により地方で過ごしたそうです。実家から遠く、実母に手伝いは頼めない。夫は仕事で忙しく、早朝出勤、深夜帰宅という日々で、週末は疲れて寝てばかり。育児、家事など負担は全てTさんに降りかかっていた、ワンオペ育児でした。
慣れない土地で、友人もいない中、Tさんを苦しめたのは孤独でした。初めての子育てはわからないことばかり。不安もあって、Tさんはわが子を可愛いと思える心の余裕はなく、泣けばイライラしながらおっぱいをあげる。よちよち歩きが始まった頃も、危ない、目を離せないと、心配の連続でストレスフルな毎日を過ごしていました。
子供が言葉を覚えて話せるようになると、言うことに腹が立つ。意思表示が増えるほど喜ぶどころから、「うるさい、なんで言うことがきけないのだ」といった気持ちの方が強かったと言います。
- イライラが募り、子供を叩いてしまい…
イヤイヤする子供に対して、「これほどやってあげているのに、どうして反抗するのか」といった怒りが募り、だだをこねる子供を無視。そのうち、「黙れ」という気持ちから手を挙げるようになりました。また、「お前がうるさいから、私が疲れるんだよ」とか、「何度も言わせるな」といった乱暴な言葉も浴びせるようになりました。
そんな悪夢の日々から解放されたのは、夫の転職で実家近くに住むことになり、実母、姑の助けを借りられるようになってからです。近所に子育て中の実姉や友人が暮らしており、ママ友の知り合いも増え、Tさんには仲間ができたように感じられました。そして、子供に手を挙げることは一切なくなりました。
- 20代の娘から「虐待された」と言われ
その後、下の子も産まれましたが、2度目の育児は余裕もあり、Tさんはようやく子供が可愛いと思えるようになりました。
夫も時間に余裕ができたことから、子育てを積極的にやってくれるようになり、Tさんは幸せな日々を過ごすようになりました。子供達が成長し大学生と高校生になってからは、楽になったと感じていたTさん。しかし、思いがけないことが起きたのです。
それは長女からの言葉でした。最初は、さりげないひと言でした。「お母さんは私を虐待していたよね」。その時は、テレビドラマを見ていたのですが、ぐずる子供に母親が手を挙げそうになったシーンでした。
Tさんは一瞬、言葉につまってしまいました。長女は、心にしまっていたものをようやく吐き出した様子でしたが、「昔のことだものね、覚えていないよね」と言って、席を立っていきました。
正直、長女に手を挙げていたことは、Tさんの中でぼんやりした記憶になっていたのです。ワンオペ育児の日々が終わった時点で、長女に対してはそれまでとは違い、できるだけ怒らないようにする、抱きしめてあげる、絵本を読み聞かせ、夜は眠りにつくまで一緒にいてやるなど、よい母親として接してきたつもりでした。
- ノートに書かれた「母ウザイ」
10代後半だった長女との関係は、Tさんにとって難しいと感じることも多かったそうです。娘は中学や高校で友人関係、部活などスムーズにいかないこともありました。勉強にも身が入らず、進学も最後まで決まらず、ハラハラさせられました。それでも何とか大学に入り、ホッとしていた矢先、長女が放ったひと言で、その後、態度が変わっていったのです。
大学1年の夏休みが終わった頃、長女はだんだん口数が少なくなっていきました。バイトで帰りが遅く、きっと疲れているのだろうと思っていたTさんは、さほど心配していなかったのですが、ある日、娘の部屋のごみ箱を空けようとしたら、破られたノートの切れ端が目に入りました。それには、「母ウザイ」という言葉がいくつも書かれていたのです。
娘は疲れているから話さないのではない。私を避けているのだ。そう思ったTさんは、ある時、自室にいた娘に声をかけました。
「あなたが小さかった頃、初めての子育てでお母さん、本当に大変だったの。お父さんの転勤で知らない土地に住んでいて、誰も助けてくれなかったし、友人もいなかった。あなたを叩いてしまったこと、本当にごめんなさい」。心から謝ったつもりでした。
娘はうなずきましたが、見ていたスマホの画面から顔を上げようとはしませんでした。Tさんは「良かった、娘は許してくれた」と思ったのです。しかし、状況はそう簡単には変わらなかったのです。
その後もTさんを避ける娘に、「まだ昔のことを怒っているの? お母さん、あなたに謝ったわよね」と声をかけるのですが、だんだん無視されるようになりました。
そこで、ある日、Tさんは思わず娘の腕をつかみ、「いい加減にしなさいよ。何度、私が謝ったら気が済むの?」と声を荒げてしまったのです。
腕を振りほどいた娘には軽蔑の表情が浮かんでいました。
「お母さんが謝りたいのは、自分の罪悪感を軽くしたいからでしょう」。その言葉はTさんの心に深く刺さったのです。
- 娘との膠着状態を打開したいのだが
カウンセリングルームに来られたTさんには、焦りの様子が見受けられました。すでに記憶のかなたにあった事実に対し、娘はずっと覚えていて、いまや母親への怒りや嫌悪感があります。
娘に何度謝っても、とりつくしまもないどころか、逆にそれすらも非難されてしまう。一体、どうすればいいのか。娘に許してもらえる日は来るのだろうか。
Tさんは次々と出てくる不安な気持ちをカウンセリングで言葉にされました。ここでTさんに気づいて頂きたいのは、当時の状況、手を挙げてしまった理由を娘に何とか説明して、理解して欲しいと強く願っているご自身の思いです。
けれども、それはTさん側の事情によってなのであり、娘には言い訳にしか聞こえないのです。娘がそのように受け止めている時には、いくらこちらの状況を伝えようとしても、閉じた耳は、心は開かないどころか、よけいふさいでしまうでしょう。
ではどうすればよいのか。娘に謝ることで、関係性を今すぐにでも変えようとは思わないことです。
関係性を変えるには、心のプロセスが必要です。一瞬にして人の心が、とくに捉え方、見方が変わるわけがないのです。
長女が幼い頃の記憶にとらわれている苦しみは、本人が向き合わなければなりません。そこには、時間も必要です。この時間の存在を見失っている人がとても多いのです。
Tさんも、そこに気づいて下さったようです。「すぐにでも、娘との関係を修復しなければ今後、娘は私のもとを去ってしまうかもしれない」
それぐらい、追い詰められていたのですが、焦れば焦るほど、娘に取り入ろうとしてしまう。それこそが、娘をかたくなにさせていると気づいたのです。
「今日は花を買って帰ろうと思います。玄関に飾ってみます。あの子が見てくれなくてもいい。ギスギスしていた家の中の雰囲気を変えるきっかけになれば」
許してもらうことばかり執着していたTさんの気持ちが緩められたのは、母と娘の間に距離感ができてもいいと思えたからです。その距離感はさらに離れてしまうものではなく、新しい関係性が作られるための大事な分岐点なのです。
このブログを読んで、私のカウンセリングに興味を持って頂けましたら、こちらのホームページもご覧ください。
娘から、他人からいつも振り回されている、といったお悩みの方に。カウンセリングとは別に「実践マインド・プログラム」というメニューをご用意しております。こちらからご覧ください。