娘に教育虐待を謝りたい母親
母娘関係改善カウンセラー横山真香です。
マスコミでよく取り上げられている「教育虐待」。勉強の成果が上がらない、進学校を受験できないなど、過剰な期待に応えられない子供に、親が暴言、暴力を振るう。子供の自尊心を著しく傷つけ、信頼関係を大きく損ねる可能性があります。
母娘関係のカウンセリングでもたびたび上がるテーマですが、今回は、娘の受験でプレッシャーをかけたことを後悔している母親のケースを取り上げます。
目次
・「受験してみる?」は「受験しなさい」ということ
「最初は、幼稚園の仲良しの子が受けるから、うちも一緒に受けようか、という軽い気持ちだった」と話す母親クライアント。幼稚園のママ友達の話から、何となく小学校受験がいいのかなと思うようになり、お受験準備の教室に通うように。
時折、行き渋る娘に対して、引きずるように連れていったこともある。教室の入り口で娘が泣きわめき、思わず大声を出しこともある。
結局、受験したものの、仲良しの子は受かり、子供は落ちてしまった。それから、幼稚園のママ友とは疎遠に。そして、今度は中学受験の話が…。
小学校受験のリベンジと、母親クライアントは早い段階から作戦を練る。今まで続けていた水泳や絵画教室はやめさせて、ピアノと英語だけに絞る。
娘の方は、幼稚園生だった時は、小学校受験といってもピンときていないようだったが、さすがに中学受験となると、意識が変わってくる。クラスにも中学受験をする人が何人かいるようで、自然と受験モードになってくる。
親からは、「中学受験してみない?」と聞かれるが、それは「受験しなさいね」と言われているも同然、と受け止めている。
・こんなのもできないのか
学校や塾でのテストの結果を見ると、母親は落胆する。ため息をつき、「なんでこんなのができないの!」と怒り出す。物が飛んでくることもあれば、大きな音を立ててドアが閉められる。
しばらくは無視が続き、娘が声をかけてもこちらを見もしない。プレッシャーをかけてくるのは、その後。友達のA子は、模試はどうだったとか、いとこのY美は、さらに1ランク上の学校を狙っているとか、同世代の子との比較が始まる。母親にしたら、それは娘をやる気にさせるために話していた、というのは、受験が終わってからわかったことなのだが、当時の娘には、大きなストレスになっていた。
・第一志望に落ちて
受験勉強をがんばったにもかかわらず、第一志望は不合格だった。父親は「よく頑張ったよ」と慰めてくれたが、母親はショックで怒りを娘にぶつけてしまう。
「なんで、落ちたのよ。あんたはいつもそうなのだから!」。娘は無言のまま、2階の自室へ。
第二志望の学校に進学するものの、クラスの雰囲気になじめない娘は、高校生になると、さらに寡黙になっていった。学校の友達や部活の話をほとんどすることもない娘を、母親はさほど、気にもとめていなかった。
「高い学費を払っているのだから、大学こそ、いい所に行ってくれなければ」。
母親の方はといえば、娘の大学進学で挽回という気持ちが強くなっていった。「一流の大学に進学してよね。このままじゃ、幼稚園や小学校のママ友と、いつまでたっても会えないわ」と、娘の前でわざと愚痴ったりもした。
・大学進学をしなかった娘
娘が高校2年になり、学校で三者面談があった。成績もそこそこ良かったので、母親としては大学進学にかなり期待して行ったのだが、そこで予想外の事態に。
娘は大学には進学せず、専門学校に進むというのだ。担任教師が目の前にいるにもかかわらず、母親は激怒した。
「あなた、一体何を言っているのよ。今まで、どれだけ、あなたにお金をかけてきたのか、わかっているの?」
激しい剣幕に、担任は、「まあ、落ち着いて。娘さんの話を聞きましょう」と言ってその場を何とかおさめた。娘は自分の将来の計画を具体的に話し、すでに父親も了解済みだと告げた。
母親は取り乱し、帰宅して夫にも詰め寄ったが、「娘の意思を尊重すべきだ」と言って、取り合ってくれなかった。
娘は実家から他県にある専門学校に進学し、一人暮らしを始めた。実習や試験、バイトなどで忙しいということで、お正月にも帰ってこなかった。母親もそれなら仕方ないとあきらめていたのだが、それは学業が忙しいからと思っていた。
しかし、娘が母親のことをどう思っているのか、あることをきっかけに、それがわかってしまった。来年は成人式ということで、振袖などの支度をそろそろ始めなければと思った母親が電話で連絡を取ろうとすると、娘が出ない。おかしいと思いながらラインで成人式準備の件を伝えると、思いもかけない返信がきた。
「成人式には帰省しません。着物も不要です」
驚いた母親はそれから何度も電話するが、繋がらない。夫からも連絡してもらうが、返信は「母とは話さない」とだけあって、それ以上は望めなかった。
・娘の気持ちを聞いていなかった
そこでようやく事の深刻さに気づいた母親は、実母に相談することにした。すると、驚くべき答えがかえってきた。
「あの子がどうしたいのか、あなたは耳を傾けることなく、自分の思いを押し付けきたでしょう」
こうして、母親はネットや本など色々調べていくうちに、自分が娘に教育虐待をしていたのでは、と思うようになった。「ここで関係を修復しなければ、今後も娘は距離を取り続けるだろう」。
そう思うと、居ても立っても居られなくなり、私のカウンセリングルームに来られた。
・今までをなかったことにしたい母親
母親クライアントは、どのように謝れば、娘が許してくれるだろうか、そればかりを話された。手紙にしようか、どのように書いたらよいだろう。娘のアパートに行くべきか、
顔を見て、何と言って詫びたらよいだろう。
母親としては、謝ることで娘の気持ちが変わるだろう、今すぐにでも実行して、以前のように会話ができるようになりたいという思いが強い。
こうしたケースで、一番多いのは、母親が、自分がしたことをなかったことにしたい、という願いだ。
しかし、そこには、娘が今何を考え、どのような思いでいるのか、という部分がすっぽり抜け落ちている。今の娘の気持ちを想像することが一番、大事なことなのだが。
母親は、関係を早く修復したいと考える。しかし、一方の娘は、そうは思っていないかもしれない。母親は過去をリセットしたいだろうけれど、娘の方には傷ついた過去の記憶がある。それを簡単にはリセットできないのである。
それでは、この関係をどうしたらよいのか。大事なのは、母娘の関係には、時間の経過があることを認識する。そして、母親自身が変わることだ。ここに至るまでには、母と娘の歴史がある。長い時間をかけて作られた母と娘の関係を変えるには、やはり時間が必要と思っていた方がいい。
(全てのケースとは言わないが)
もう一つ、重要なのは、母親の価値観が変わらない限り、たとえ娘に謝ったところで、また同じような流れになる可能性が大きいということだ。
自分の価値観を娘に押し付けていないか、それを自覚したら、まずは、自分の価値観を疑ってみることだ。
こうした心のプロセスを実際に行動に移すには、自分の気持ちを客観的に捉えられるようにしたい。そのためにも、一度、気持ちを言語化する作業であるカウンセリングを検討して頂きたいのである。
自分と娘との関係に、客観的な視点を入れる。そこから、今後、娘とどのように向き合っていったらよいのか。その答えを解く鍵は、カウンセリングで見つけることが可能なのだ。
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